しゃべるシーラカンス

釣りして読書してのんびりしたい

片思いで大事なのはそれが成就することより散ってから立ち直ること

16歳の秋

彩子と彼の交際は始まった。

ダンス部の彩子はとびぬけて顔がかわいいわけではないが優しく、同級生の彼と似て、大人しい人だった。

 

 

 

 

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※高校生カップルのイメージ

 

破局

付き合ったと思ったら、秒速で破局である。

彼は初めて彼女ができたことに大いに喜んだが、高校生のカップルにありがちなように数日で交際は終わってしまった。

 

しかし彼はまだS子が好きだった。

よくある未練である。

 

やり直すには、再び仲良くなるための会話が必要だ。

そう考えた彼はS子と話すために行動を起こした。

 

 

S子が登校すると、狙いすましたタイミングで彼が登校してきて会話をした。

 

S子の誕生日にはメールを送った。当時はまだメールだった。

「お誕生日おめでとう。元気してる?」

平凡なやりとりだが、彼は有頂天だった。

 

 

特に用件がなくても、イベントにかこつけてメッセージを送った。

「久しぶり~。ダンス部の公演っていつあるの?」

「元気?体育祭、どの種目に出る?」

彼は、S子からメールを受信したときだけピンクのランプが点灯するように設定した。

 

それでも会話やメールができたのは多くても週に1,2回ほどだった。

当時の彼の視線を追えばいかに恋愛にうとい人でも、誰に恋しているか容易にわかっただろう。

彼はわかりやすいのである。

 

会話しようと努力したにもかかわらず、週に1,2回しか会話やメールのやりとりがなかったのには理由があった。

 

彼がおとなしい人間だったからだ。

 

さらに多感な高校生ゆえの自意識過剰のきらいがあった。

それにより、たとえ会話のチャンスがあっても声をかけられないことが多かった。

 

そんな状況に彼自身もあせっていた。

このままでは卒業の時期が来てしまうのでは。

 

声をかけられないならば、校内で目立って魅力を伝えれば良い

 

目立つ人といえば、イケメンクラスの人気者部活のエースだろう。

だが彼は決してイケメンではなかったし、クラスの中心人物ではなかった。

 

そこで、スポーツでアピールしようと部活動に精を出したが、エースとまでは言えなかった

 

一方、S子は振った後も悪意なく、自分に好意を送りつづける彼をどう感じただろう。

会う機会もメールのやりとりもそれほど頻繁になかったし、少なくとも彼を恋愛対象とは見ていなかったはずだ。

 

S子は彼をあしらい続ければそのうちに気持ちが冷め、円満に友達関係に戻れると考えていた。

 

 

18歳の冬

彼はまだ誠実に好意を伝えれば再び交際ができると信じて疑わなかった。純粋すぎたのだ。

 

そしてS子も優しすぎた。

やりとりのある彼に対して傷つけぬよう配慮して接したし、二人で出かけたこともあった。

 

二人で出かけたことをきっかけに、彼は卒業する頃には復縁できると考えていた。

 

 

卒業式から数日後

彼はS子をデートに誘った。ソラマチである。

planetarium.konicaminolta.jp

 

プラネタリウムの上映がおわり、場内がゆっくりと明るくなった。

退場しながら、彼は意を決してこう言った。

 

「手をつないでもいい?」

「え?」

 

S子は戸惑ったが、彼は手をつないだ。

 

「なんか、緊張するね」

「うん。ごめん、緊張して手汗やばいかも」

 

少し会話をしつつ、その日、彼はS子を電車のホームで見送った。

普段より会話がよそよそしいのが気にかかった。

 

 

後日

相変わらず彼はS子にメールを送っていた。

 

デートに行ったし、そろそろかな。

と彼はメールを送った。

 

「また付き合えないかな」

 

 

S子からメッセージが来た。

 

 

「ごめんやっぱり、友達だとしか見れない

 

 

彼は、失恋した。

想い続けていれば成就するものとばかり思っていた。

そうじゃないと彼は困るのだ。

だが事実、彼は失恋した。

 

彼はこのことで大いに傷ついた。その傷も癒えぬまま高校を卒業していった。



 

そしてお察しの通り



 

彼は、かつての私である。



同級生と付き合えなかった私は…

 

いつの時代も、真の恋愛強者は合コンでもアプリでもなく同級生か同僚と恋愛・結婚してるんだよね。

 

この言葉にしたがうなら私は光の速さで恋愛弱者に分類される。同級生と恋愛してないからだ。それは激しく同意する。

 

恋愛強者とは、普通に過ごして(好きなタイプと)、交際まで発展させられる人だ。

 

私は、S子とは付き合えなかった。

そもそも、今思えばこの片思いが上手く行かないことは明らかだったのだ。これには、現実を直視できなかったなどいくつか原因があるが、今は省略しよう。

では今でもタイプの女性と仲良くなれないかと言われれば、答えはノーだ。

 

なぜなら片思いが成就せず散ってから、ダメだった理由を試行錯誤して、改善したから。

 

そのおかげで傷ついた私も失恋から立ち直り、今ではマッチングアプリや合コン、出会いスポットを利用するようになり彼女もできた。かつては失恋してこのまま立ち直れないと考えていた私にも、である。

 

立ち直るのに時間はかかったけど、彼女ができるようになったのは、その過程があったから。

 

誰がどのくらい大きな失恋をして苦しんでるかわからないけど、
片思いで大事なのはそれが成就することより散ってから立ち直ることである。